【ナポリ仕立ては何故フロントダーツを裾まで繋げるのか!?を解説します】

query_builder 2025/10/12
【ナポリ仕立ては何故フロントダーツを裾まで繋げるのか!?を解説します】

クラシコイタリアファッションは地域によりハウススタイル特性がかなり異なることは周知の事実です。

それはデザインやフォルムだけでなく、パターンワークの特徴にも当てはまります。

皆様はほとんどのナポリ仕立てジャケットがフロントダーツが裾の最下部まで繋がったパターンで統一されていることにお気づきでしょうか。

今回はその点について掘り下げて解説したいと思います。


ナポリ仕立て(Sartoria Napoletana)のジャケットで前身頃のダーツ(pince / dart)を胸辺りから裾まで長く引く特徴は、単なる見た目の流儀ではなく「技術的・機能的・美学的」な必然から来ています。

以下に要点を分かりやすく整理します。


1) 歴史・気候・素材に根ざした「軽さ」と「柔らかさ」

ナポリは温暖で、厚いキャンバスや重い肩パッドを使わないソフトな仕立てが伝統的に好まれました。
内側の厚い芯(horsehair canvas)に頼らずに「布そのものの取り方」で立体を作る手法が発達したため、ダーツで前身頃全体の立体(胸→ウエスト→裾)をつくる必要がありました。
結果として軽くしなやかな着心地が生まれます。


2) パターン上の合理性;立体(胸カップ)を前身頃で作る

前ダーツを長く取ることで、胸囲の立体からウエストの絞り、そのまま裾先までのドレープまで一連に作れます。
これは「前身頃一枚の中で縦方向の立体をコントロールする」やり方で、サイドや後身頃に過度な縫い代や構造を加えずフィットさせるのに向きます。


3) 動きに対する馴染み(エルゴノミクス)

長いダーツは、腕を動かしたとき・座ったときにジャケットが引っぱられて変に皺が寄るのを防ぎ、前身頃が自然に「伸びたり/たわんだり」して動きを吸収します。
つまりジャケットが体の可動域に追随しやすく、ラペルや前合わせが勝手に開きにくく、これは実用上の大きな利点です。


4) 表情(ドレープ)とシルエットの美学

裾まで続いたダーツは、前身頃の下半分にも微妙なボリュームと「流れ」を与えます。
ナポリらしい“ふんわり胸が出てウエストが絞られ、裾は柔らかく広がる”という独特のシルエットは、この縦のダーツによって生まれます。とくに「柔らかく人の体に沿う」見え方が重要視される文化です。


5) 手仕事と修正のしやすさ(現場での調整)

ナポリの職人は客の体に合わせて手で詰めたり広げたりしながら仕上げることが多く、前ダーツを長く取ると調整ポイントが前身頃に集中して分かりやすく、詰めやすい。
パターン変更も局所的で済むため、仕立ての現場効率が良くなります。


6) 英国仕立てとの対比(なぜ英国はしないのか)

英国流は厚いキャンバスや芯材で胸の立体を作り、側面(脇や後ろ)でウエストを取ることが多い。
構造が重く、直線的なラインを描くため、縦に長いフロントダーツはあまり使われません。
対してナポリは“軽さを優先した立体の取り方”としてダーツを多用します。


【まとめ】

ダーツを裾まで繋げるのは「軽い構造で立体を作り、動きに追随させ、美しい柔らかなドレープを出す」ため。

さらには、製作・調整が現場でやりやすく、着心地と見た目の両方を満たすための伝統技法。

結果的に「ナポリらしい」丸みのある胸、絞られたウエスト、裾の柔らかい流れが実現するのです。


以上でフィレンツェ仕立てとナポリ仕立てのフロントダーツの違いの解説を終わります。

皆さんの求めるスーツに巡り合うための情報整理になれば幸いです。


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